日本医療通訳学会
第2巻 第1号

医療通訳技能評価ルーブリックの開発

押味 貴之

国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター

背景: 「国際臨床医学会認定医療通訳士」の「試験合格者認定」の対象試験として3つの試験が認定されているが、 その評価項目は統一されていない。
方法: 本シンポジウムでは医療通訳教育における形成的評価において活用できる「医療通訳技能評価ルーブリッ ク」を開発するべく、「国際臨床医学会認定医療通訳試験」の実施団体にアンケートを実施した。
結果: 3つの試験で共通する10の評価項目が明らかになった。評価方法は試験によって異なり、複数の段階が用い られていることが判明した。評価ルーブリックに関する意見では、学習者が自身のレベルを把握できるフィードバ ックを重視する評価の必要性が強調された。
結論: 医療通訳技能評価において通訳行為に関する評価が重視されていることが確認された。通訳者のコミュニケ ーション行為に対する評価は多様な視点が必要であり、今後は実際の医療現場での通訳者の役割を反映した評価基 準の構築が重要であることが示唆された。

「医療通訳技能認定試験」をとおした医療通訳の技能に関する質の評価

佐藤 岳

一般財団法人 日本医療教育財団

日本医療教育財団では、2013年度に厚生労働省の「医療通訳育成カリキュラム基準」の構築に携わったことをきっかけに、2016年度より同カリキュラム基準に基づいた医療通訳者の能力評価として、「医療通訳技能認定試験(基礎・ 専門)」を開始し、現在に至るまで医療通訳の技能に関する質の評価に取り組んでいる。当試験では、通訳技術や言語能力をはじめ、コミュニケーション力、応対力、通訳倫理等、医療通訳に関する総合力を有した人材を想定した評 価を行っている。

通訳品質評議会による実技評価とルーブリックに対する意見

藤井 ゆき子

一般社団法人 通訳品質評議会

通訳品質評議会の検定試験は筆記試験と実技試験があり、医療通訳に必要な要件の観点から問題内容を策定し、必要 な知識と現時点の通訳技量を客観的に評価することを目的としている。医療通訳に必要な要件は厚生労働省が提示し ている「医療通訳育成カリキュラム基準1」のみならず、医療通訳の国際規格であるISO219982も参照して具体的な 要件設定をすることが必要であると考え要件を設定した。すべての必要な要件を検定試験のみで測る事は不可能であ るが、医療通訳者は通訳者のカテゴリーの一つの専門職であるという認識から通訳技能の判定の重要性を認識してい る。評議会の通訳実技試験は実際の場面を想定した逐次通訳の試験であり合否判定だけでなくレベル判定も兼ねてい るのが特徴である。評価観点は正確性だけでなく伝わる通訳という観点も重要視し、海外の通訳関連の試験のルーブ リックも参考に評価項目を策定した。さらに評価者の経験や主観に左右されることを避けることは持続的かつ公正な 能力判定としては重要な要素であり、抽象的な評価文言や定義を避け客観的で計測可能な指標であることを重視している。

日本医療通訳協会による実技評価とルーブリックに対する意見

高岡 由美

一般社団法人 日本医療通訳協会

ルーブリックは形成的評価のみならず総括的評価にも有用である。ルーブリックでは「何を評価するか」が明示され るため、それに基づくことは試験内容の妥当性の向上につながる。更に、その分析的な系統性・一貫性のある評価基 準により、客観的で公正な評価の実施が可能となる。医療通訳者に求められる技能、態度等の最終ゴールを定め、そ の達成に向けた具体的な評価項目を挙げ、それぞれに段階的な言葉による評価基準を設定するという過程を踏むこと で、1つの規範的な医療通訳技能評価ルーブリックの開発は可能であると考える。そのルーブリックに依拠した問題 の作成、評価の実施は医療通訳技能試験の妥当性・信頼性を高め、各試験団体の評価項目の統一にもつながる。また、 達成すべき目標と評価判定の際に検討される要素を示すルーブリックは医療通訳学習者・医療通訳技能試験受検者の 明確な指標となる。今後、医療通訳者育成の場面で、また、医療通訳技能評価の際にルーブリックが広く使われるこ とが期待される。

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